経済被害に対する保険の支払い率とその原因

はじめに

日本は生命保険・損害保険市場とも世界のトップレベルにあります。ただこの両者には対GDP比という点で比較していくと大きな違いがあります。

生命保険市場では対GDP比においても日本は世界の上位の水準をキープしています。ただなぜか損害保険市場になってしまうと対GDP比が2%ちょっとにまで落ちてしまいます。これは世界平均を下まわっていて世界でも30番台ということでかなり低い水準に留まっています。この水準はアメリカ・韓国や地震国のニュージーランドの半分以下になっています。またイギリス・ドイツ・フランスなどの欧州諸国と比較してもかなりの低水準に留まっています。

このようになっている理由としては日本人は古来の考え方を尊重するという流れが海外の人よりも強いのではないかということです。昔からあった巨大地震・大津波・台風などの水害などに対して無常観を抱いてしまうことが多いということです。またかなり我慢強いという民族性もあってまたゼロからやり直せばいいという感じで現状維持を望む方が多いという国民性も影響しているのではないかと思われます。リスクに対する認識や文化的な考え方が他の民族とはだいぶ異なっていることが分かってきています。日本の場合は世界でも有数の地震国です。さらに活火山や台風の襲来なども多く自然災害の多い国です。なのに損害保険の加入率がこれだけ低いというのは意外という他にありません。

ただ東日本大震災の発生後は企業向けの地震保険に加入を希望している方は多くなりました。ただ損害保険会社がこのような事態に対応できずに企業地震保険の加入があまり進んでいないというところも実際には出ているようです。時代は少しずつ変化していますが損害保険会社や国などがそこに対応していないということもこの流れを助長している気がします。

経済被害に対する保険の支払い率が低い

日本の損害保険の利用率は先進世界各国よりもだいぶ低くなっているということは前述しました。その結果巨大地震に対しての損害の補償も当然ながらに低くなってしまいます。ここでは世界の10大災害といわれているものを比較していきます。これをみると中国と日本の経済被害に対する保険での補償がいかに少なくなっているかが分かります。

ここでその10代災害と言われているものを紹介します。経済被害・保険支払・保険支払率・死者・行方不明者はおおよその推定と考えていただけると幸いです。

1、東日本大震災(2011年・日本):経済被害2100億ドル程度、保険支払350億ドル程度、保険支払率16.7%程度、死者・行方不明者18000名程度
2、ハリケーンカトリーナ(2005年・アメリカ):経済被害1250億ドル程度、保険支払622億ドル程度、保険支払率49.8%程度、死者・行方不明者1350名程度
3、阪神淡路大震災(1995年・日本):経済被害1000億ドル程度、保険支払30億ドル程度、保険支払率3.0%程度、死者・行方不明者6450名程度
4、四川大地震(2008年・中国):経済被害850億ドル程度、保険支払3億ドル程度、保険支払率0.4%程度、死者・行方不明者85000名程度
5、タイ洪水:(2011年・タイ):経済被害457億ドル程度、保険支払160億ドル程度、保険支払率35.0%程度、死者・行方不明者820名程度
6、ノースリッジ地震(1994年・アメリカ):経済被害440億ドル程度、保険支払153億ドル程度、保険支払率34.8%程度、死者・行方不明者60名程度
7、ハリケーンアイク(2008年・北中米地域):経済被害383億ドル程度、保険支払185億ドル程度、保険支払率48.3%程度、死者・行方不明者170名程度
8、長江洪水(1998年・中国):経済被害307億ドル程度、保険支払10億ドル程度、保険支払率3.3%程度、死者・行方不明者4200名程度
9、チリ地震(2010年・チリ):経済被害300億ドル程度、保険支払80億ドル程度、保険支払率26.7%程度、死者・行方不明者520名程度
10、クライストチャーチ地震(2011年・ニュージーランド):経済被害160億ドル程度、保険支払130億ドル程度、保険支払率81.3%程度、死者・行方不明者185名程度

これを見てもやはり日本と中国の保険の支払い率が低くなっているのが分かります。阪神大震災以降企業向けの地震保険の加入が増えたことなどもあって東日本大震災後の保険の支払い率は多少上がりました。ただまだ20%にも満たないという状態なので諸外国と比較してもかなり低くなっています。

このような原因になっている背景には日本人や日本企業が損害保険に加入するという文化がまだ根付いていないことまた保険機能が十分に発揮されていないことさらに保険の商品内容の少なさや保険会社の事情などの様々な要素が関係しています。このような課題を一つ一つクリアしていくことが必要になります。よってこの数字が上がるにはまだもう少し時間がかかりそうです。

企業向けの地震保険は家計地震保険よりもはるかに加入率が低くなっているのも問題といえます。さらに逸失利益を担保するための利益保険への加入や構外利益保険などの間接損害のための保険加入率はさらに低くなってしまいます。企業の方が個人よりも使えるお金も多くさらなる備えを万全にしなければいけないにもかかわらずこのような状況になっていることはかなり憂慮すべき状態ともいえます。ただ損害保険会社も企業損害に対しての引受責任額を現状では増やすことができないという点を考えるとこのような状態になってしまうのもやむを得ないのかなという感じになってしまいます。

さらなる大きな問題が出そう

さらに企業向けの地震保険の場合は損害保険会社の担保力の問題もあって首都圏地域や東海そして近畿地区のような都市部の産業集積地帯では保険の引受制限額がより低くなってしまいます。そこに首都直下地震・東海地震・南海トラフ地震などが起こってしまうと莫大な損害が出てしまいます。おそらく企業向けの地震保険の総額は東日本大震災の350億ドルを大きく超えることは間違いなさそうです。ただ保険の支払い率という観点で見てみると16.7%という数値をさらに下回るのではないかという懸念が出てきています。それもほぼ確実にそうなるだろうとも言われています。都市部に大きな地震が来てしまうと企業規模レベルでの経済損害は果てしなく大きいものになってしまいます。

そう考えてみると日本はやはり巨大災害への備えが世界各国よりも低いのかなという気がします。その切実さはある程度理解をしていてもそれを改善させるような行動をなかなか起こせない民族であるということです。日本人は他民族よりも現状維持を好む民族です。新たなことを起こす行動をすることが苦手な民族でもあります。そのブロックを解除して乗り越える力も重要になっています。これは国民・企業・政府が一体となって考えていくべき課題ではないかと考えています。

法人の地震保険は簡単に加入できない

地震保険には簡単に入ることができません。家計地震保険は再保険制度というものがあって国が引き受け元になってくれるのですが、法人の地震保険にはそれが適用されません。

ということもあって地震保険は大企業などの一部の企業しか入ることができません。ほとんどの企業は入ることができないんです。

また地震保険は営業などができなくなって逸失利益が発生してしまう場合などの間接損害には適用されません。さらに工場などの倒壊などの直接費用などに対しても契約時の保険金額の5%から10%程度しか保険金が受け取ることができないことが多いです。たとえば契約時に10億円補償の地震保険を契約しても実際は5000万円から1億円程度しか手元に戻ってこない可能性が高いということです。これでは地震保険に加入するメリットがあまりありません。

  • 地震保険に加入したいけどできなかった
  • 同じ地域に会社があるので地震で一発で企業が飛んでしまうかもしれない
  • 企業自体は儲かっているけど地震が一番の不安

などの方は一度相談いただきたいと考えています。