法人の企業向け地震保険の加入率と現状の課題

はじめに

阪神大震災までは企業向けの地震保険はほとんど補償の対象にはならず火災保険の場合のみが対象となっていました。ただ阪神大震災という都市部を襲った震災によって地震保険の重要性が多少はクローズアップされるようになってきました。特に震災後2000年くらいまでの数年間は企業向けの地震保険引受責任額が伸びていった時もありました。

ただその後はリーマンショックなどもあって地震保険に企業が投資をできなくなっていきました。そこにあの東日本大震災が起こって流れが変わりました。そこまでは地震保険を購入するような企業はたしかに多くありませんでした。さらに今後予想される東海地震・南海トラフ地震などにも敏感になってきた企業もあります。

企業地震保険の現状

東日本大震災の企業地震保険を中心にした損害保険の支払いは総額で6000億円程度と言われています。ただ実際の東日本大震災の企業の受けた経済的な損失は少なくても5兆5000億円程度と言われています。少なく見積もった額で計算してもおよそ10分の1程度しか補償されなかったことになります。さらに最も被害のひどかった東北3県の宮城・岩手・福島では火災保険の補償額に対する地震保険の上限額が100%になっているにもかかわらず、実際の地震被害に遭値する保険金の支払い額は11%程度に留まりました。さらに営業機会の損失などの間接損害に対する補償額はさらに少なかったということが分かってきました。

この6000億円のうちなんと半分の3000億円は国際再保険市場から支払われたものと思われます。よって日本の損害保険会社の補償額はたった3000億円程度ではないかと言われています。そう考えてみると日本にも企業向けの再保険制度を取り入れた方がいいような気もするのですが国との間に大きな壁があるようなので実現にはまだかなりの時間がかかりそうです。

企業の地震保険の加入率も低くまた地震の保険金の支払いを利益を削ってしまうという考えの認識もあってどうしても地震保険の提供に慎重になってしまうことが現実的な状況となっているといえます。また国際再保険市場からも日本の損害保険会社の地震リスクに対する評価が低すぎるということもあって、損害保険会社が地震保険を積極的に売り込んでも収益があまり見込めず最終的な補償が再保険市場に頼らざるを得ないような事情になってしまいます。そうなってしまうと保険金額の保険価額に対する割合に値する付保率がさらに低くなってしまうことが予想されます。というところから保険水準を維持してさらに損害保険会社の経営問題を引き起こすことのない水準という点ではこの程度の補償額で良かったのではないかという何ともいえない状態になってきてしまいます。これは相当に難しい問題です。

地震保険の加入率はいまだに低い

こういった背景もあってこれまでは工場・生産設備・倉庫・オフィスなどの地震保険の加入率はいまだ3割程度にとどまっています。また企業が事業中断などの利益損失のためにかけている保険である企業地震保険の加入率はさらに少なくなってしまいます。さらに財物にまで保険をかけている企業は全体の2割程度に過ぎません。地震保険を担保している構外利益保険はほとんど見かけません。工場や生産設備に対する地震保険の加入率すら高まらない中で自動車保険をはじめとする他の保険についても地震保険の付保率が一向に高まらないという問題も出てきています。

東日本大震災後は少しずつ地震保険の加入率も上がってきています。特に自動車や家電メーカーなどは地震保険に対する興味を持つ企業が多くなってきました。ただ三陸や常磐沖などでは地震や津波に対する保険料率が上がってきています。それだけでなくそれまでの巨大地震の発生頻度及び最大支払責任額の推定がかなり低く見積もられていたということです。今後は資本や再保険の戦略などの大幅な修正や変更が必要になってくるのではないかと思われます。そこから元受引受方針の見直しにも発展していくことと思われます。いずれにしても巨大地震の発生頻度や最大支払い責任額などの推定の引上げをせざるを得なくなります。そうなってしまうと地震引受責任額を引き上げることはとても難しい問題になってくるのではないかと思われます。

また今回の東日本大震災で再保険市場からも巨額の回収があったということで再保険の取引収支が大幅に悪化しています。そこで再保険の料率を今までの2倍程度になったものもあります。それも含めて平均するとだいたい3割程度の再保険の料率の上昇になっています。一方地震保険の保険料率は平均して1割程度となっています。そこから地震保険と再保険の差がさらに生じてしまい保険会社にとってはさらなる厳しい状況を背負ってしまっているという状態になりつつあります。

南海トラフ地震が起こると

今までは東日本大震災を例にして説明をしてきました。これを今後予想されている首都直下地震・東海地震・南海トラフ地震などにあてはめて考えていくと想定される地震の経済被害は東日本大震災をはるかに上回る10倍クラスの損害になるものと予想されます。とても企業レベルで引受をできるような補償の額ではないということです。また関東や東海地区は地震保険の引受制限地域にもなっています。保険の支払額は東日本大震災の6000億円を上回るのではないかと思われます。ただ地震保険の補償額が東日本大震災の全経済被害額の11%を下回る可能性が極めて高いのではないかと思われます。

保険リンク証券

このようなこともあって企業が保険だけに頼らずに地震のリスクを第3者にヘッジしてしまう方法も考えられています。一例としては地震のデリバティブやキャットポンドなどがあります。ただ企業がキャットポンドを講師するケースは決して多くはありません。その理由はコストが膨大にかかることそしてキャットポンドの不確実性にあります。ただ災害発生時にデフォルトとなることが確認されると地震の契約期間を通常の1年から3年程度・場合によっては5年程度まで伸ばすことも可能になるというメリットがあります。ただこのスポンサー企業は地震発生の経済被害額などで大きな損害を受けているにもかかわらずその上に資金を回収できないなどのリスクも出てきます。なかなか引き受けるところが出てこないのも仕方ないのかなといえます。これもまた大変な問題となっています。

またキャットポンドは手続きも煩雑になっていますので地震保険に比べて大きなメリットがあるかといえば決してそういう状況ともいえません。さらにリスクが特定の場所に集中してしまうと市場の反応が読みづらいという問題も出てきます。このような理由から一般企業がキャットポンドを利用する機会は限定されているのではないかと思われます。

将来においても地震保険の加入率が上がるかなどの不安もある中で保険に変わる商品としての一般的な解決方法にはなりにくいのではないかといえます。

地震保険は簡単に加入できない

地震保険には簡単に入ることができません。家計地震保険は再保険制度というものがあって国が引き受け元になってくれるのですが、法人の地震保険にはそれが適用されません。

ということもあって地震保険は大企業などの一部の企業しか入ることができません。ほとんどの企業は入ることができないんです。

また地震保険は営業などができなくなって逸失利益が発生してしまう場合などの間接損害には適用されません。さらに工場などの倒壊などの直接費用などに対しても契約時の保険金額の5%から10%程度しか保険金が受け取ることができないことが多いです。たとえば契約時に10億円補償の地震保険を契約しても実際は5000万円から1億円程度しか手元に戻ってこない可能性が高いということです。これでは地震保険に加入するメリットがあまりありません。

  • 地震保険に加入したいけどできなかった
  • 同じ地域に会社があるので地震で一発で企業が飛んでしまうかもしれない
  • 企業自体は儲かっているけど地震が一番の不安

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