東日本大震災から学ぶリスクファイナンスの重要性

はじめに

東日本大震災では未曽有の被害が出ました。ただ今後も大きな地震が来ることはほぼ確実と言われています。ここで建物の全壊や焼失件数を算出していきます。参考に阪神大震災や東日本大震災もデータとして残しておきます。

表:建物倒壊・焼失件数と経済被害

地震名死者・行方不明者建物全壊・焼失件数直接被害(兆円)GDPに対する評価
首都直下地震11,000名850,000棟66.6兆円14.2%
東海地震9,200名460,000棟26兆円5.5%
東南海・南海地震18,000名628,700棟43兆円9.2%
南海トラフ地震323,000名2,386,000棟60兆円12.8%
近畿直下地震42,000名970,000棟61兆円13.0%
中部直下地震11,000名300,000棟24兆円5.1%
東日本大震災19,000名130,000棟16.9兆円3.6%
阪神淡路大震災6,437名105,000棟9.6兆円1.9%

東日本大震災や阪神淡路大震災は10万から13万棟もの建物が全壊するという大きな損害でした。ただ今後予想される巨大地震はこれらを大きく上回ると言われています。経済被害額をGDP比で比較すると東日本大震災の数倍クラスのものも多数あります。東日本大震災の時以上の被害想定をし直す必要が出てきています。また関東大震災ではGDP比の30%程度・伊勢湾台風も10%超程度あったのではないかと言われています。

巨大地震が経済を停滞させる

東日本大震災では企業の借り入れなどが金融機関の経営を圧迫するというような事態は避けられました。ただ首都直下地震などが起こると経済被害が巨大化することが考えられます。そうなると金融機関の経営問題や金融システムが大混乱するということも考えられます。

さらに金融機関は不良債権の発生と共に被災した個人や企業に新たな融資を行う場合に更なる不良債権を増やすという負の連鎖が起きることも考えられます。バブル崩壊で起こった経済危機が巨大地震を基に起こってしまうということも考えられます。

東日本大震災が教訓となっているのか

東日本大震災では経済的な備えができていなかったということもあって大きな苦難を経験しました。この東日本大震災を教訓とできるのかはすごく心配です。国民の関心が集中するところだと思ったのですが国も企業も重い腰を上げようとしていない感じがします。

さらに多くの金融関係者や学者さらに経済評論家の方も今の日本では地震などの巨大な自然災害への経済的な備えが不十分であることそして日本企業が自然災害に対する経済的な備えの拡充を必要としていることそして海外進出企業が自然災害に対する十分な保険手当を購入できなくなっている問題などについても情報を共有することができました。いずれにしても巨大自然災害に対する備えがまだできていないのではないかというところでは一致した見解を持っています。

さらに今後は首都直下地震・南海トラフ地震・東海地震など都市部を中心とした大きな地震も予想されています。それでも金融界・経済界・政府などから大きな声が出てきていません。それはやはり金融業界もこの分野に投資をしてもそれに見合った収益を得ることが難しいこと、また政府にとっては今でも財政が厳しいのにさらなる財政出動となると国家としても厳しさを増してしまうという面で見て見ぬふりをしているのかなという気がします。

ただそこを少しでも準備をしておくことで将来の状況がだいぶ変わるのではないかと考えています。これは世界中の巨大災害と東日本大震災の復興状況を見ればわかります。東日本大震災以降の被災地は仙台などの大都市を除けば復興は道半ばといえます。いやむしろ人口の現象などによって元の状態を戻すことさえも難しいのではないかと考えてしまいます。阪神淡路大震災でも大阪・神戸という大都市が大きな被害に遭いました。都市部ということを考えるともう少し早く復興をしてもいいのではないかと感じています。

日本人は良くも悪くも我慢強いという国民性があります。自然災害が起こっても苦難の歴史から時間をかけて這い上がったという過去があります。ただ今は世界的なことも考えていかなければなりません。日本の経済の立ち遅れは海外諸国にも大きな影響を与えてしまいます。またそれが経済的な市場を世界に持っていかれるかもしれないという危機感も出てきます。そうなると日本人の粘り強さを世界に示す場もなくなってしまうということにもなりかねません。

危機を感じているのであればその対策を打っていくことが大事になってきます。さらにそこから次の発展を目指す勢いで行かないと将来への明るい展望は見えません。ただ新しく何かを変えるということになると膨大なエネルギーが必要になってきます。次の世代に負の遺産を残してはいけません。規制ルールを合理的なものに変更して国内外の資本を合わせて日本に新たな経済的な備えの仕組みを創設することに取り組まなければなりません。

経済が疲弊すると国は荒廃して精神が荒みます。日本の国土と日本人の精神を守るためには地震などの巨大災害に遇っても経済が沈まないような土台を作る必要があります。戦後の焼け野原からここまで大きく復興をした先輩たちのためにも未来ある若者にツケを残してはいけないと考えています。

地震などの巨大災害は早晩日本のどこかでやってきます。巨大災害に対する備えを持つことはとても重要なことです。少しでも早くこの分野に着手してほしいと願っています。

まとめ

たしかにリスクファイナンスという分野は企業にとって利益を生むものではありません。よって過度な負担を企業に求めるのも事業継続という観点からも困難な状況といえます。ということからも企業のリスクファイナンスについても民間と政府でコスト分散を考えてもいい時期なのかなという気がします。

ただ企業にとってリスクファイナンスをするということは大きな損害を被らないための一つの大きな方法といえます。また企業の成長のための投資を促すこともできるのでこれを行うかどうかで企業自体の競争を勝ち抜くことにもつながります。

ただ現状では事業者と保険会社などのサービスを提供する側においてリスクの認識や対策の優先順位に大きな意識の差があります。現状では民間のみでの自律的な普及促進はなされにくいのではないかと思われます。

リスクの引受市場は伝統的な再保険市場が現状では中心となっています。ただその再保険市場も資本市場からの参入はあるもののその数は限定的となっています。それらの面から価格変動リスクが大きい状況は変わっていません。また超低頻度で超巨大災害リスクの引受手がいないことは中長期的な課題となっています。とても難しい問題といえます。

今後は地震などの巨大災害が来ても日本が沈まないような対策が必要となってきます。対策としては国・企業・保険会社・金融会社・大学などの多様な分野の方の参画と各主体をマッチングする仕組み作りが必要といえます。また自然災害のリスクマネジメントを担う知見を有する人材は十分とはいえません。政府も協力してこのような人材を育成していくことが重要といえます。

やはりリスクファイナンスという分野を企業と損害保険会社に丸投げして地震保険に加入させるということだけで済ませてはいけない問題といえます。やはり政府などの国がどこまで協力・助力をしていくかということが本来的な問題ではないかと考えています。

日本の再保険市場は欧米諸国やバミューダなどの国際再保険市場に委ねられていることそしてこれ以上再保険市場に依存をするということはかなりの無理があります。今後はやはり日本でも再保険市場を作る必要があります。

地震保険は簡単に加入できない

地震保険には簡単に入ることができません。家計地震保険は再保険制度というものがあって国が引き受け元になってくれるのですが、法人の地震保険にはそれが適用されません。

ということもあって地震保険は大企業などの一部の企業しか入ることができません。ほとんどの企業は入ることができないんです。

また地震保険は営業などができなくなって逸失利益が発生してしまう場合などの間接損害には適用されません。さらに工場などの倒壊などの直接費用などに対しても契約時の保険金額の5%から10%程度しか保険金が受け取ることができないことが多いです。たとえば契約時に10億円補償の地震保険を契約しても実際は5000万円から1億円程度しか手元に戻ってこない可能性が高いということです。これでは地震保険に加入するメリットがあまりありません。

地震保険に加入したいけどできなかった
同じ地域に会社があるので地震で一発で企業が飛んでしまうかもしれない
企業自体は儲かっているけど地震が一番の不安

などの方は一度相談いただきたいと考えています。

参考資料
日本経済安全保障の切り札・巨大自然災害と再保険:石井隆著