再保険市場と日本の様々な規制との調整

はじめに

日本に再保険市場が育たなかった大きな理由は日本の経済規模とリスクの量に見合った再保険市場と再保険スキームを作ることができなかったからではないかと思われます。その面を保険業法の問題と税制や税率の面から考えていきます。

保険業法の問題

日本に再保険市場が育たなかった大きな理由は日本の経済規模とリスクの量に見合った再保険市場と再保険スキームを作ることができなかったからではないかと思われます。その面を保険業法の問題と税制や税率の面から考えていきます。

自然災害の収支期間の超長期制と巨額性から国家の保険もしくは国家の再保険が必要であるという考えもあります。政府は被災者の支援そして家計地震保険を優先した考えでいます。政府の財源にも限界があります。このような状況を考えても企業向けの地震保険などの家計地震保険と別の大きな財政を出動させることはあまり大きな期待を持てる状況ではありません。

そこで民間の再保険会社や再保険のスキームが出てくるような環境整備を行うことが大事になります。そこに政府系の出資機関などを通して出資する方法を採ることで事業の採算性の確保と巨額の必要な資金の確保に目途が立ちます。または海外の再保険資本を招き入れて日本に再保険市場の規模を拡大させることで大きな状況の改善を行うことも可能になってきます。

保険制度の問題

保険業法については大きく分けて2つの問題があります。1つ目は保険会計制度の問題そして2つ目はソルベンシーマージン制度の問題があります。

前者の問題では再保険事業においては収支期間を可能な限り長期スパンで巨大地震などの自然災害に対して極力短期間で引受責任額と同額まで準備金を積む必要があります。ただ日本ではまだその制度が出来上がっていません。

後者の問題では海外の再保険市場を日本に招いて本格的な事業展開を期待できるに至っていないということです。

その他の問題としては保険支払が長期に及ぶロングテールビジネスの扱いや既発未報告事故に対する支払準備金の積立方法について再保険事業に適したルール設定が必要になってきます。

さらに再保険事業は元受け事業に比べてリスクが高くなる傾向にあります。日本の損害保険会社よりアメリカの損害保険会社さらに国際再保険会社とリスクの高い事業になっていきます。

再保険事業では利益が大きく出る年にはできるだけ多くの準備金を積み上げていくことで巨大損害の時に備えることができるようになっています。そこから元受損害保険会社のルールを再保険会社にそのまま適用するということは現状できないということを意味しています。

また欧米諸国のルールは国によって差異があります。ただ再保険会社の準備金積立と保持という面に関しては引受責任額に対して責任の遂行が確実に行えるように柔軟な体制を採っています。

ソルベンシーマージン

保険業法の大きな問題としては海外資本が日本に進出をして許可を取得して事業を行おうとする場合に大きな問題が起きます。日本に再保険市場を創設しようとすると海外の再保険資本や金融資本を日本に呼び込むことによって市場規模をより大きくして安定性を向上させることが重要になってきます。日本に再保険市場を構築する際の最大の理由は自然災害に備えることです。ただその障壁となるのがソルベンシーマージンの規定です。

外国資本が日本に大きな資本を持ち込む場合にはそれに見合うだけのメリットが期待できるかが大きなポイントになってきます。再保険の場合は日本で認可取得を行わなくても、海外拠点からの引受が可能で、日本に大きな拠点を置いて資本を置く場合にはそれによるメリットが期待できない限りは日本に資本を持ち込む状態にはなりません。

つまり海外の本店の資本の一部を割譲することの資産運用効率の低下と要員の採用などによって日本に拠点を設置や維持をするためにかかる諸費用を補って余りあるメリットを再保険事業と投資運用で生み出すことが要件になります。しかしながら現状では再保険事業を行うためにアンダーライターや経理人の採用そしてシステムやオフィスなどの賃貸料までを持ち込んで投資活動を行っても本国と同等の投資収益を得ることは到底不可能といえます。さらに資産運用や管理要員などの様々な費用が発生します。そうなるとさらに経営効率を悪化させます。

そこで資本を本国以外の通貨に分散する為替リスクの意味は多少あります。低金利時の日本円はドルやユーロなどの高金利水準の国よりも円が高くなってしまいます、そうなると日本に市場を持つことは不利になってきます。さらに多くの日本企業が海外に拠点を移しつつあります。さらに人口の減少も始まっています。そのようなところから日本市場の魅力は決して高い状態ではありません。

一方で日本に資本と大きな拠点を置くメリットも存在します。日本の保険会社とのコミュニケーションを高めることによって自然災害やその他の再保険リスクのことも含めて知ることができます。さらに事業戦略についての理解を深めていくことでビジネスの拡大を狙うこともできます。ただ日本だと投資面での利益が期待できないので持ち込む資本の金額には自ずから限界が出てきます。

日本で営業するには様々な制約がある

日本で事業の認可をして営業を行おうとすると、保険業法では元受保険会社同様に再保険会社にもソルベンシーマージン基準を満たすことが条件となります。この基準は保険引受責任額や投資の運用リスクに対して十分な財務上の余裕を持たせて保険の支払いに問題が生じないようにする制度といえます。このソルベンシーマージンというものが海外の再保険資本にとっては大きな壁になってきてしまいます。地震などの自然災害リスクや産業リスクを巨額に引き受けていく再保険会社の場合の資本準備額はかなりの巨額になります。地震や風水災害などの個々の自然災害リスクの最大予想支払責任額の数倍もの資本が実際には必要になってきます。

日本で事業を行う以上はある程度の基準を設けることは理解できます。ただ海外の再保険資本に日本での事業にあまりメリットがないという中で巨額の資本を持ち込んでほしいと言っても実際には無理があります。海外の拠点から日本の再保険を引き受ける場合には求められていない基準が日本に拠点を置いたとたんに急に厳しい基準をクリアしてほしいというのはどうしても納得の行きにくい考えといえます。

一つの方法としては持込資本額を小さくする方法として引き受けた再保険責任を再々保険することによってその分の必要な資本額を減ずることができます。ただ再保険会社にとって手間とコストが大きくかかる上にあまり意味のないものといえるので実効性が乏しくなります。

再保険は保険会社と再保険会社という保険のプロ同士の金融契約です。お互いの信用評価は事前に十二分に行います。実際に保険会社が再保険を購入する場合には再保険会社の経営の健全性に関する最新の信用格付け機関の評価および公表された財務諸表の情報なども踏まえた上での判断を行います。よって再保険会社の財務の健全性にソルベンシーマージン比率を満たしているかどうかというのは判断基準に入っていません。

そのようなところまで要求をするとなると国際再保険資本が日本に進出する際の大きな足かせになってしまいます。高い信用格付けを有する再保険会社については巨額の再保険支払時に不足が生じた場合には本店から不足分を補うことの取締役会の確認をつけるなどの条件をつけることでソルベンシーマージン基準から地震などの自然災害リスク引受の要素を軽減するなどの現実的な対応をすることが重要になってきます。

日本の法人税率の高さ

日本の法人税率は40.69%と世界で最も高い水準です。アメリカも高めで40%、その他フランス33.33%、ドイツ28%、中国25%、韓国24.2%、スイス21.17%、シンガポール17%、アイスランド12%などとなっています。また国によっては軽減税率というものを適用しています。こうしてみると再保険だけで見ていくと日本と海外諸国の法人税率の差はさらに広がっていきます。さらにこの21世紀に入ってからも日本の法人税率と世界の法人税率の差が大きくなっています。日本も一応法人税率は引き下がりました。ただ世界は事業の発展をメインにしていることもあってそれ以上に下がっています。アメリカやイギリスも今後法人税率を下げる方向にいくようです。こうしたところからも日本と世界の差はさらに大きくなっているということです。

この高い法人税率は国際的な金融取引としては重要な再保険制度が日本に根付かない大きな要因の一つとなっています。法人税率の高い国での事業は最終的な利益率が下がります。このためこのような国での事業を海外は敬遠します。法人税率がゼロに近いところもしくは低いところで事業を行った方が利益率が高くなります。そこから投資家に高い利益を還元できます。現にバミューダの世界の再保険取引に占めるマーケットシェアはドイツやアメリカに次いで英国と3位争いをするくらいまでの成績を残しています。

そこに収支期間が超長期の自然災害リスクの再保険で毎年の準備金の積立率を制限・積立の上限を低く設定・引受責任額に対して十分な準備金を積み立てていないという状態で1年から数年で利益を確定させるということは現実的に不可能なことといえます。さらに日本の法人税率は世界一の高さなので利益率が向上しません。こうしてみると先進諸国や中国さらにはシンガポールなどとの競争でどうしても不利になってきてしまいます。

まとめ

保険業法も重要ですが異常危険準備金やソルベンシーマージン基準などの規制が再保険事業を行うためには大きな圧迫となっています。そこはまず税制や税率が欧米並みにならないとこの問題は解消されそうもありません。

ただ実際には大きな制度変更を伴うことになります。その必要性を金融業界などがどうやって国などの行政機関に訴えていくかがカギになってきそうです。

大掛かりな再保険市場や再保険スキームを作るという現実的な目算が立たない限りは現状を変えることはまず不可能な状況といえます。この現状をどうやって変えていくかがとても難しい課題といえます。

地震保険は簡単に加入できない

地震保険には簡単に入ることができません。家計地震保険は再保険制度というものがあって国が引き受け元になってくれるのですが、法人の地震保険にはそれが適用されません。

ということもあって地震保険は大企業などの一部の企業しか入ることができません。ほとんどの企業は入ることができないんです。

また地震保険は営業などができなくなって逸失利益が発生してしまう場合などの間接損害には適用されません。さらに工場などの倒壊などの直接費用などに対しても契約時の保険金額の5%から10%程度しか保険金が受け取ることができないことが多いです。たとえば契約時に10億円補償の地震保険を契約しても実際は5000万円から1億円程度しか手元に戻ってこない可能性が高いということです。これでは地震保険に加入するメリットがあまりありません。

地震保険に加入したいけどできなかった
同じ地域に会社があるので地震で一発で企業が飛んでしまうかもしれない
企業自体は儲かっているけど地震が一番の不安

などの方は一度相談いただきたいと考えています。

参考資料
日本経済安全保障の切り札・巨大自然災害と再保険:石井隆著