リスクファイナンスの方向性

はじめに

日本は地形などの自然的な条件から地震などの多くの自然災害のリスクを有しています。そのようなことからも企業のリスクファイナンスというものを真剣に考えていく必要があります。リスクファイナンスの分野に精通している人材の育成が急務といえます。また利用する事業者や提供する金融機関さらに地域や国家全体のリスクマネジメントを考える行政機関が協力することも必要不可欠といえます。のみならず投資先として活用する個人や機関投資家にもメリットのある分野といえます。

大学の専門課程にも出てきている

ただリスクファイナンスは自然災害・リスクマネジメント・ファイナンスなどの学際的かつ専門的な知見を有する必要があります。この分野をを一括で教育できる機関は現状では存在しません。そのような中でも人材育成に資する大学・大学院教育に対する期待は高くなっています。さらにこの分野での大学の学部設立も出てきています。法学や社会防災といった既存の学問体系に依拠したカリキュラムで行っている大学もあります。ただ設置認可等の要因により教育プログラムをなかなか作れないというのが実際のところあります。

また学生側から見てもリスクファイナンスを学んでも社会での認知が少ないということもあって多くの学生は敬遠するのではないでしょうか。また就職の面で決してプラスになるわけでもないので学生が本当に来るのかは不安があります。それ以上に災害などのリスクファイナンスを教えるだけの専門家や指導者の人材不足というところがあります。まだまだリスクファイナンスを大学で学ぶというところには至っていないのかなという気がします。

民間と政府が連携して行う必要がある

大学でリスクファイナンスを行うという以前に危機管理やリスクマネジメントに関する学問体系の体系的な整理や関係者の理解促進が重要となります。まず企業の経営者などにリスクファイナンスを普及していくことが重要となります。アメリカのように統一的な教育プログラムの開発をしていくことも重要になります。リスクファイナンスという分野は大学・政府・保険会社・金融機関・企業などのように一つの機関に任せるのではなく、産官学金が連携して進めていく必要があります。

リスクファイナンスに政府の関与は必要ではないかと考えています。ただ政府といっても一省庁でできるものではありません。防災対策の総合的な調整機能を考えていきながら金融庁や経済産業省などの機関とも緊密に連携を取っていきながら進めていくことが望ましい状況といえます。

また地方公共団体でも防災関係部署と商工関係部署の連携を取る必要があります。経済圏が同一になっている地方公共団体間の連携を図っていくことで地域経済の発展と自然災害への備えを一体として考えて行く必要があります。あくまで経済政策を優先に考えていく上でそこに災害リスクを盛り込んでいくべきではないかと考えています。

民間だけではできない

リスクファイナンスは事業者にとっても避けることはできない課題であると昨今は考えています。ただ財政的なことや人的なことを考えても企業だけで行うことには到底無理があるように感じます。地震などの自然災害リスクを大きく見積もっていくことそして経済的な損失に対して事前に備えていくことは国や地方公共団体にとっても重要なことです。地域ごとや業種ごとなどのようにさらに細分化した形でのワーストケースを想定することはもちろんのことリスクベースで被害量を把握していくことでより効果的な減災を進めていくことができます。

国や地方公共団体は多くの財物が地震や水害などの自然災害のリスクにさらされています。地方公共団体が大きなダメージを受けることで地域の産業の減少や人口の流出さらに税収の激減なども起こってきます。これによって経済的なダメージを大きく受けてしまいます。その地域で経済活動を営む企業にとっては死活問題にもなりかねません。こうした企業にとって自らの経済を守ることは経済の発展にとっても重要なことというのが分かります。

課題を解決するための取り組み

このリスクファイナンスの課題を取り組むための課題としては以下の3つのようなことが挙げられます。

短期的な取り組み

1、リスクコントロールとリスクファイナンスの相乗効果を発揮してリスクマネジメントが最大限でかつ効果的に実施されること
2、国・金融機関・保険会社・企業などの多くの主体が地震などの自然災害で自社の経営へ与えるリスクを認識することそして関係する主体に働きかけられる自律的なネットワークの構築を目指すものであること
3、国や地方公共団体などの公的機関はリスクマネジメントの一環として民間による活動を側面的に支援すること

また早急にできることとしては政府や地方公共団体はまず自然災害が事業等に与える影響等に関する研究をしてほしいです。これまでの災害における情報収集をして事業者自らもしくは関係者などに働きかけを行っていただきたいです。そこで地震などの自然災害が事業などに与える影響のを検討していくことが大事になってきます。そこから市場関係者の関心を高めることが重要となります。

もう一点は企業・政府・地方公共団体・保険会社・金融機関・大学などを通してリスクファイナンスの専門家を養成していくことです。民間による資格認証制度なども活用した人材の育成も重要になってきます。

中長期的な取り組み

また中長期的な課題としては自然災害のデータ検証の積み上げがほとんどといっていいほど出来ていません。これらから検証の結果に大きなばらつきが出てしまいます。このような状態では今後活用ができません。

今後リスクファイナンスというものを普及させていくには行政が大学や研究機関と連携をしていくことで災害リスクの定量化に努めることそしてそれらを関係者間で共有をしていくことが重要となります。さらにその検証成果を具体的な施策につなげていくことが重要になってきます。ここは金融機関とも連携をして既存の金融商品の見直しや新たなリスクファイ ナンス手法を検討することも重要になってきそうです。

地震などの大規模な自然災害は甚大な経済被害をもたらすことは東日本大震災や阪神大震災のケースを見ても日本の財政に大きな影響を及ぼしてくることも分かってきています。公的支援に関する財政上の制約に関する研究を進めていくことも重要になります。ここから事業者に求められる最低限の備えを明示していくことで注意を促していくことや事前の備えの実施状況と事後的な救済支援策の関係性を整理しておくことも一つの重要な指針といえます。

継続的な取り組み

さらに継続的な課題としてはリスクファイナンスを行うための行動の指針となる原則を作って参画する民間の事業者が同じ方向を向いて行動をしていくことが重要になります。参画している企業がみんなバラバラの方向を向いてしまうことでできるものもできなくなってしまいます。一つ一つの小さな行動の積み重ねが大きな目標を作るために大事なものになります。

また公的機関は企業・保険会社・大学など賛同する主体がそれぞれで連携して行動をしていくことで課題や情報を共有してその課題の解決に向けた検討を継続的に進めていく枠組みづくりを支援するべきと考えています。

まとめ

東日本大震災の経験からも国などの公的支援には限界があります。原則は民間企業の自助努力というところが重要になってきます。その民間の自助努力というところもリスクコントロールという部分ではできていますがリスクファイナンスという部分ではまだまだできていません。

企業は地震などの自然災害のリスクだけをリスク要因ととらえることはできません。このようなところから企業に自然災害のリスクファイナンスという分野に対して過度な負担を負わせることも酷な状態といえます。そこから政府なども協力した官民一体の対策が必要となってきます。

企業・保険会社・金融機関・民間企業や政府や地方公共団体などの国の関係者が連携することは大事なことです。ただそこをサポートしていく学者や実務家の方などの専門家のさらなる養成が必要になります。これらの方が一体となって同じ方向を向いていくことでリスクファイナンスの現状と課題を整理することができます。その上で日本全体の経済の向上を目指していくための新たな災害リスクのためのマネジメントを行っていくことが大事になってきます。

リスクマネジメントは民間の自助努力がメインといえます。ただ国や地方公共団体などの行政機関もそこを企業に一任するのではなく企業の活動を支援していくことは大事になります。企業だけでも行政だけでもリスクファイナンスを行うことはできません。お互いの協力が必要になります。

まず企業にとってのリスクファイナンスを行う一つの方法として企業地震保険に加入することが考えられます。ただこれも簡単なことではありません。

地震保険は簡単に加入できない

ただ地震保険には簡単に入ることができません。家計地震保険は再保険制度というものがあって国が引き受け元になってくれるのですが、法人の地震保険にはそれが適用されません。

ということもあって地震保険は大企業などの一部の企業しか入ることができません。優良中小企業なども含めて大半の企業は入ることができないんです。

また地震保険は営業などができなくなって逸失利益が発生してしまう場合などの間接損害には適用されません。さらに工場などの倒壊などの直接費用などに対しても契約時の保険金額の5%から10%程度しか保険金が受け取ることができないことが多いです。たとえば契約時に10億円補償の地震保険を契約しても実際は5000万円から1億円程度しか手元に戻ってこない可能性が高いということです。これでは地震保険に加入するメリットがあまりありません。

地震保険に加入したいけどできなかった
同じ地域に会社があるので地震で一発で企業が飛んでしまうかもしれない
企業自体は儲かっているけど地震が一番の不安

などの方は一度相談いただきたいと考えています。

参考資料

我が国経済の災害リスクマネジメント力向上に向けて:http://www.bousai.go.jp/kaigirep/gekijin/index.html?fbclid=IwAR0fG-b4TqKxp2x-ueTQRMQGEDFG2VfjqIEpFNCt6_RwI_PaX0EmcY7OgIs