はじめに
リスクマネジメントの目的は家計や企業などがさらされているリスクの悪影響を最小限度にすることではないかと思われます。例えば自然災害についていえば人的被害と経済被害を最小限にすることといえます。
リスクマネジメントには5段階のプロセスがあります。リスクの発見・リスクの測定・リスクマネジメントの手段・効果的な方法を選択して実施・その評価と監視を行って必要な変更と改善を加えるの5つです。
ここではその中のリスクマネジメントの手段について考えていきます。それをリスクの回避・軽減・移転・保有の4つに分けて説明をしていきます。またリスクマネジメントの手段として事業継続計画及び被災したときの必要な資金の確保手段を考えていくことでリスクファイナンスを中心にその役割と必要性について検討をしていきます。
リスクの回避
自然災害のリスクを回避するためには地震・台風・洪水・火山噴火・豪雪などの災害の可能性の少ないところに住む必要があります。日本の国土は8割が山地・山間部・農地などになっていて住むことが難しくなっています。国内ではおよそ18%しか可住地面積がありません。その18%の地域に大多数の国民が住んでいることになります。
特に東京圏・大阪圏・名古屋圏の3大都市圏に人口の半数以上が集中しています。この3大都市圏は地震・火事・津波・台風・洪水などの危険性が高くなっている地域といえます。また東海地方では平地が内陸の方まで広がっています。伊勢湾台風では海岸部から20キロも離れた内陸地まで水が入り込んできました。その地域は巨大地震や大津波などが起こるとまたそのような不安を抱えることになってしまいます。
防災上の観点からは沿岸部から少なくても数キロの範囲に生活の拠点をおかないということが理想的といえます。ただ水産業などに従事している方は海辺が命ともいえますのでそうともいえない事情があります。また日本の国土の状況を考えるとそこに人口を集中させる必要もあるのでなかなか難しい問題ともいえます。
リスクの軽減
次にリスクの軽減についての説明をしていきます。リスクの軽減方法には防災・事業継続計画・分散立地の3つが代表的といえます。以下ではこの3つについて紹介をしていきます。
防災
防災は自然災害の脅威を正しく認識してそれに対して適切な防災を行っていくことによって生命及び財産を守っていきます。完全には防ぐことができなくても被害を小さくすることも大事なことです。災害発生の予知と避難方法を徹底することさらに河川の堤防や防潮堤などの防災対策を進めて災害に強い街や建物を作っていきます。
地震や津波そして気象災害に対する行政の取組みでは地震予知・気象予報・避難方法の確保・人命救助・火災の消火・負傷者を手当てするための病院の確保などがあります。さらに消防車や救急車などの緊急自動車が通ることができるような状況を作ることも重要になります。
また洪水や津波さらに台風などの高波対策としては河川の堤防・遊水地・海岸の防潮堤・防波堤・防砂林の建設や整備など多岐に渡ります。特に海岸線の防潮堤の建設は日本各地で行われています。特に河川の氾濫による洪水から人や建物や田畑を守っていくことを古くから考えています。
一方住宅・工場・倉庫そしてオフィスビルなどの法人の建物に関しては、津波や洪水のリスクに対する立地の問題・液状化の対策や耐震対策のための地質を調査して軟弱の地盤を避けること・耐震や免震などの対策を講じておくことも重要になってきます。
近年はゲリラ豪雨によって都市部での洪水が増加していく傾向があります。コンクリートが多いので排水能力がとても大事になります。対策を行うにも費用の問題や老朽化に対する対応などの終わりのない作業が続きます。ただ被害を小さくすることが対策を講ずるなどで被害を小さくしていくことは可能となっています。
事業継続計画(BCP)
事業継続計画は企業が災害時に従業員の安全を確保するとともに事業を継続していくために必要な事項について予め手順を定めて備えていきます。具体的には災害や事故などが発生したときの従業員の避難ルート・方法・場所・安全の確認・被災時の優先業務・最低従業員の確保・原材料の確保・取引先の連絡方法などについて事前に検討していきます。さらに原材料の仕入れ先・製品の輸送ルート・手段の多様化・災害時の電源・用水の確保なども行っておくことが重要になってきます。他には免震や耐震構造の建物を作ること・不燃材の素材を使うことなども重要になってきます。そして什器は固定して火災や化学物質が漏れ出ないようにするなどの対策も必要になります。
自然災害のリスクが大きいと言われている地域では事業継続計画が徹底されていたところが多く、東日本大震災の甚大被災地では企業の人的安全の確保と事業の継続そして早期の復旧という面では割に上手く行った方ではないかと考えています。ただ災害時の必要な資金を確保するというリスクファイナンスという面では課題が残ったのではないかと思われます。ここを整備していくことも日本経済の災害に対する耐性を確保する面ではとても重要なテーマではないかと考えています。
分散立地
もう一つのリスクの軽減方法は工場などを異なる地域において分散させることです。近くばかりにおいてしまうと一度の災害ですべてが止まってしまいます。最悪の場合は事業の継続にも支障が出てしまいます。東日本大震災だけでなく今後は東南海地震などの大きな地震も予測されています。そうした広大な被災エリアを想定してリスクを分散させていくことを今後は考えていく必要があります。
ただ生産拠点を別々にしてしまうことで生産や事業活動の低下さらに拠点間の距離が遠くなることでの輸送コストの上昇や人の移動コストなども考えなければなりません。ただ大きな災害を視野に入れて考えた場合には分散立地はとても有効な方法といえます。それでも東日本大震災とタイ水害のように同時期に大きな災害が2つ起こってしまうこともあります。これは難しい問題といえます。
リスクの移転
リスクを回避することは現代の世の中ではとても難しいです。リスクをより軽減することは回避することよりは行いやすくなります。ただコストの面も含めてすべての面で軽減をできるかといえばそうともいえません。そうなることも想定してリスクの一部もしくは全部を第3者に移転することを検討していきます。
リスクを第3者に移転するためにはリスクを金銭的に評価して対価を支払ってリスクを引き受けていただくことになります。最も代表的なものが保険です。次に同じような仲間を集めていく共済のようなものが出てきます。それだけでなくリスクを証券化して資本市場にリスクを移転していく方法もあります。その例としてはキャットポンドやデリバティブなどの保険リンク証券などと呼ばれています。
保険会社は引受責任額が担保力を超える場合は災害が起こったときには保証ができなくなる可能性がありますので再保険を購入してリスクを分散しています。保険は生命保険と損害保険に分かれます。損害保険は特に大型の産業施設に代表される大規模で高価値の財物に関するリスクを引受けるために引受責任額が高額になります。また自然災害のように1つの事象で多くの保険の支払いが同時に発生する集積リスクを負うので責任額はとてつもなく大きくなります。
さらに損害保険会社は巨額のリスクと不確実な事業リスクを背負います。よってリスクの量を数値化しておく必要があります。それが担保力を上回るような状態の時はその分のリスクの量を第3者に移転しておく必要があります。その代表的なものが再保険ということになります。あとはキャットポンドを発行して資本市場にリスクを分散するなどの方法を採る時があります。
再保険はできれば日本1か国とか東京などの1地域にこだわらないで世界中の単位で考えていくことの方が望ましいのではないかと考えています。再保険は世界レベルで分散することで意味をなすのではないかと感じています。ただ日本は再保険に関してはとても遅れているような気がしてなりません。それを行わない限り日本経済を作っていく上ではとても重要になってきます。
ロイズのあるイギリス・フランス・ドイツ・アメリカなどにはこのような災害が起こったときの再保険事業を行うための設備がそろっています。ただ日本が再保険を適用しようにも元受損害保険会社用の規制があります。いわゆる日本の保険ルールが適用されてしまいます。また税制や税率も日本の損害保険契約を基にして適用されてしまいますので再保険事業を行うことは厳しくなってしまいます。
日本の損害保険会社の保険引受責任をヘッジするには大部分を国際再保険市場に依存しなければならない状況になっています。その状況がまた日本の再保険市場の進出を大きく阻んでいるという理由にもなっています。
地震保険には簡単に入れない
地震保険には簡単に入ることができません。家計地震保険は再保険制度というものがあって国が引き受け元になってくれるのですが、法人の地震保険にはそれが適用されません。
ということもあって地震保険は大企業などの一部の企業しか入ることができません。ほとんどの企業は入ることができないんです。
また地震保険は営業などができなくなって逸失利益が発生してしまう場合などの間接損害には適用されません。さらに工場などの倒壊などの直接費用などに対しても契約時の保険金額の5%から10%程度しか保険金が受け取ることができないことが多いです。たとえば契約時に10億円補償の地震保険を契約しても実際は5000万円から1億円程度しか手元に戻ってこない可能性が高いということです。これでは地震保険に加入するメリットがあまりありません。
- 地震保険に加入したいけどできなかった
- 同じ地域に会社があるので地震で一発で企業が飛んでしまうかもしれない
- 企業自体は儲かっているけど地震が一番の不安
当研究所にご相談・お問い合わせ下さい。